焼き肉と道徳と私

例えば、焼き肉屋の店内にある牛や豚が描かれたポスターを見ると胸が締め付けられる思いになる。なおかつ、その牛や豚が笑顔で七輪の上で肉を焼いていたり、「美味しいヨ!」なんて吹き出しが入っていると一目散に店内から逃げ出したい気持ちになる。

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※こんな感じである。画力の無さが狂気を増幅している。

 

ここで予め断っておくが私はいわゆる菜食主義というやつではない。肉を食すことは好き(特に鶏皮)であるし、他人が肉を食すことに何ら抵抗も嫌気も感じない。(ちょっと焦がしたくらいで「お前は人間失格だ」と言わんばかりに責め立ててくるやつは苦手である)

いつか誰もが道徳の授業で教わった最重要課題のそれである、つまりは「相手の立場になって考える」というやつである。私は上記のような場面に出くわした際に、牛さんや豚さんに申し訳ない気持ちになると同時にその瞬間、自分がいつか食べられる側になる可能性があることを細胞レベルで感じ、その恐怖に駆られるのである。

それからの焼き肉タイムは地獄である。私のトングは震え上がり、肉を掴むことままならない。見かねた友人が気をきかせてタン塩なんかを私の皿に置いてくれるが、すでにその身は裂かれ焼かれたはずである状態のそいつが囁く。「お前、そんな二枚舌ばっかりの人生でいいのか・・?」と。私は大声を上げながら全速力で店を後にする。タン塩にそこまで言われる筋合いはない。

つまり何が言いたいかと言うと、深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているように、我々が牛や豚を食す時、我々もまた食される立場になる可能性があることを忘れてはいけないのだ。いつか人間食主義の異星人に攻め立てられやむなく敗北を迎えた時、そこには恐らく人間焼き肉専門店がオープンするのだろう。その時、店内に同じ状況が広がっていた際に我々はどう感じるだろうか。少なくとも、私はどうか敬意を持って美味しく召し上がって頂けることを切に願う。

 

男前のモンスター

毎朝バスを待っている間バス停付近にある自販機にてエナジードリンク(Monster)を買って飲んでおり恐らく完全に中毒なのだが、ある日いつものように自販機に210円ちょうど投入しボタンを押したが出口からは何の反応もなく投入金額の表示も消えており、完全にお金だけ吸い込まれた事があった。

そのまましばらく待ってみたり自販機をにらみつけたり蹴りつけたりしてみたが一向にドリンクもお金も吐き出さないので自販機に記載のあったアサヒの窓口まで問い合わせてみる事にした。名誉の為に予め述べておくがこれは別に自身が中毒であるからやお金の為に問い合わせた訳ではない事は明言しておきたい。ただ、なけなしの小銭を自販機に吸い込まれ特に何もせず仕事に向かう自分の背中を想像すると大変に寂しくなったからである。どんな顔をして1日を過ごせばよいかを考えるだけで動悸がするのである。

「本当にお金入れたんですか」、「本当は伊右衛門なんじゃないんですか」、「どうしてそのシャツ選んだの」等と色々と取り調べ形式に疑惑をかけられる覚悟ではいたが実際にはこうこうでお金を吸い込まれた旨を伝えるなり「まあ大変だわ」とそれはご丁寧に対応して頂き安堵した。どうやら自販機の管理者とやらにご連絡頂けるらしいのでフルネーム、住所、電話番号とありったけの個人情報を伝え折り返しを待つ事となった。(誕生日は要らないらしい 祝うつもりはないのだろう)

それからちょうどバスが来てしまったので乗った途端に恐らく管理者とやらであろう番号から着信があった。公共交通機関内での通話と信号無視は死刑だと日頃から考えている自分は意地でも取る気はなかったのでスルーしたがそれから狂ったように着信の嵐が来たため非常に怖かったがなんとか無視を貫いた。

それからバスを降りて折り返しをかけることにした。鬼のような謝罪かもしくは鬼そのものが出るのかとドキドキしていたが、どうやら直接会って返金させてほしいとのことである。だがすでに出社目前であったのでその旨を伝えると「うーむ・・・」とお互い無言になってしまい気まずい空間が生まれた。結果的には自宅のポストに入れて頂く事となり交渉成立となったのだが。

その夜帰宅するなり祖母が何やら男前の男性が210円の入った封筒をうちに届けて来てくれたと言う。恐らくその管理者とやらであろう。わざわざ届けてくれた事に祖母は大層驚いていた。

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色々と振り替えってみると悪いことをしたなと感じている。悪いことというか、社会全体を見据えた時、あの時窓口へ電話をかけ、わざわざ男前に金を届けさせた事は非常に非生産的であったと感じる。しかも男前だったというのだからその申し訳なさは増すばかりである。窓口のお姉さんの優しさと男前のご足労を現金化した場合、それは210円では到底済まなかったはずである。多大なる方々にご迷惑をおかけし、尚且つ社会の歯車を停止させてしまったのだ。この210円は神棚にしまい、毎日朝夕拝む、そして私にも家族が出来た暁には子にもそうさせよう、受け継いでいくのだ。そうしていくのがよいのだろう。あの男前の魂が浄化するまで・・・。

ちなみにまたあの自販機でMonsterを買ったがまた出てこなかった。電話はしなかった。あなたならどうしますか?